このブログは、Cloud Partner Advent Calendar 2025の2日目の記事です。
こんにちは!クラウドパートナーの大川です
AWSでサーバーレスを実現する方法として、代表的なサービスがAWS Lambdaですね
手軽にコードを実行できますが、Lambdaがコードを実行するとき、その裏側で何が起こっているのでしょうか?
本記事ではLambdaの実行環境の初期化、実行、そしてシャットダウンという3つの主要フェーズを、初心者にもわかりやすく解説します
また、ただ概念を説明するだけでなく、AWSの分析ツールであるX-Rayを活用し、
コールドスタートの具体的な所要時間を確認してみたいと思います
AWS Lambdaの3つの主要コンポーネントを抑える
ライフサイクルの解説をする前に、Lambdaを構成する重要な要素を抑えましょう
Lambda関数は、以下の3つの主要なコンポーネントが連携して動作しています
これらのコンポーネントは、入れ子になった階層構造として捉えると分かりやすいです
- Lambda Function (関数コード)
- 私たちが記述するビジネスロジックそのものです
- Runtime (ランタイム)
- 関数コードを実行するための言語固有の環境です(例:Node.js、Python、Javaなど)
- 関数コードと実行環境の間を取り持ち、AWSからのイベントを関数コードに渡し、結果を受け取る役割を果たします
- Execution Environment (実行環境)
- 最も外側の層であり、関数を実行するための基盤となる隔離された環境
(コンテナ)です - メモリ、CPU、ネットワークなどのリソースを割り当て、
ランタイムと関数コードが安全かつ安定して動作するための土台を提供します。
- 最も外側の層であり、関数を実行するための基盤となる隔離された環境
この要素を図にすると以下のようになります
実行環境の中にRuntimeとLambda Functionが格納されていることがわかります

実行環境の「使い回し」の仕組み
この階層構造の中で、特に重要なのが「実行環境」です
Lambdaがイベントを受け取ると、迅速に実行環境を用意して関数を実行します
しかし、イベントのたびに環境を一から作成していると、起動に時間がかかりすぎてしまいます
そこで、Lambdaは一度立ち上げた実行環境を、すぐには破棄せず、一定期間プールに保持します
次に同じ関数へのリクエストが来たとき、もしプールに待機中の環境があれば、その環境を使い回すことができます
この環境の再利用こそが、ウォームスタートと呼ばれる挙動です
Lambdaの高速な応答速度を実現する鍵となります
逆に、環境の新規作成から始めるのが、後に詳しく解説するコールドスタートです
Lambda ライフサイクルを構成する3つのフェーズ
それでは、今回の本題となります
Lambdaはユーザーから実行のリクエストを受けると、次の3つのフェーズを踏みながら処理を行います
このライフサイクルを理解しましょう
- Init フェーズ(初期化)
- Invoke フェーズ (実行)
- Shutdown フェーズ (終了)
図にすると以下になります

さらに、各フェーズで具体的にどのような処理をしているか見ていきましょう
①Intiフェーズで行われていること
Init(初期化)フェーズは、以下の3つのサブステップで構成され、順番に処理が行われます
- Extension init (エクステンション初期化)
- 拡張機能が最初に起動し、初期設定や外部システムへの接続準備を行います
- 拡張機能は、セキュリティエージェント、モニタリングツール、テレメトリー(監視)ツールなど、さまざまな目的で使用されます
- Runtime init(ランタイム初期化)
- PythonやNode.jsといった、関数コードを実行するためのランタイムが起動し、環境をセットアップします
- S3から関数コードと設定されているすべてのレイヤーをダウンロードし、実行環境のファイルシステム上に展開します
- Function init (関数初期化)
- 私たちの関数コードのグローバルスコープ(ハンドラ関数の外側)に記述されたコードが実行されます
- データベース接続の確立、設定ファイルのロード、外部ライブラリのインポートなど、
時間のかかる処理は通常ここで行われます

Intiフェーズの重要ポイント
- このフェーズ全体にかかる時間が、コールドスタート時の遅延の主要な原因となります
図にすると以下の流れになります

②Invokeフェーズ
続いてInvokeフェーズを詳しくみていきましょう
Invokeフェーズは、①で行われた実行環境準備が整った後に実行され、ハンドラ関数の実行を行います
- 内部処理
- ランタイムがイベントデータを受け取り、それを関数コードのハンドラ関数に渡します
- ハンドラ関数内で定義されたビジネスロジックが実行され、処理結果が呼び出し元に返されます
- 課金対象
- このInvokeフェーズの実行時間が、AWS Lambdaの実行時間における主要な課金対象となります
Invokeフェーズの重要ポイント:
- 実行環境が再利用されるウォームスタートの場合、Initフェーズは完全にスキップされ、すぐにこのInvokeフェーズから処理が始まります。これによって高速な実行が可能です
③Shutdownフェーズ
最後に、Shutdownフェーズを見ていきましょう
Shutdownフェーズは、関数がInvokeフェーズの完了後、実行環境が一定時間(数分程度)アイドル状態が続いた場合に、終了処理を行います
- Runtime Shutdown(ランタイムの終了)
- まずランタイムにシャットダウンシグナルが送信されます
- Extension Shutdown(拡張機能の終了)
- Extensionに対してもシャットダウンシグナルが送られ、最大2秒程度の猶予時間内で、
リソースの解放や、Invokeフェーズでバッファリングしていたログ・メトリクスの最終送信などのクリーンアップ処理を行うことができます
- Extensionに対してもシャットダウンシグナルが送られ、最大2秒程度の猶予時間内で、
図にすると以下の流れになります

ライフサイクルを全体図で確認
ここまで各フェーズを見てきましたが、全体で見ると以下になります
Lambda実行のリクエストがあると、以下の順番で処理が行われます

ウォームスタートとコールドスタートの実行パターン
上記で見てきた3つのフェーズは、Lambda関数が呼び出されたときに、
「実行環境が新規に立ち上がるか」「既存の環境が再利用されるか」によって、たどる経路が変わります
この違いが、途中で名前が出ていましたがコールドスタートとウォームスタートです
それぞれの実行パターンを比較してみましょう
ウォームスタート
- パターン: 実行環境がまだプールに待機しており、再利用される場合
- たどるフェーズ: Initフェーズを完全にスキップし、すぐに Invokeフェーズ から処理を開始します
- 特徴: 実行環境は既に立ち上がっており、グローバルスコープのコード(DB接続など)も実行済みのため、非常に高速に応答が可能です。
Initフェーズの時間がゼロになるため、理想的な状態と言えます
コールドスタート
- パターン: プールに再利用できる環境がなく、AWSが新しい実行環境を立ち上げる必要がある場合
- たどるフェーズ: Initフェーズ(Extension init、Runtime init、Function init)から始まり、
その後 Invokeフェーズ に移行します - 特徴: 環境のプロビジョニングや初期化(コードのダウンロード、依存関係のロードなど)の時間が実行時間に加算されるため、応答が遅くなります。
この遅延が、ユーザー体験に影響を与えることが良くあります
| 実行パターン | Initフェーズの実行 | Invokeフェーズの実行 | 実行速度 |
| ウォームスタート | スキップ | 実行 | 高速 |
| コールドスタート | 実行される | 実行 | 低速 |
ライフサイクルとパフォーマンスの関係
このようにコールドスタートはInitフェーズで実行される処理の時間となります
したがって、Lambdaのパフォーマンスを最適化するには以下の2つが重要となります
- 「Initフェーズの時間を可能な限り短縮する」
- 「コールドスタートの発生自体を避ける」
動作で確認
では実際にコールドスタートとウォームスタートの挙動を確認してみましょう
以下のようなLambda関数を作成しました
またX-Rayを有効化しておきます
そして、この関数を2回実行します
import json
from datetime import datetime, timedelta, timezone
JST = timezone(timedelta(hours=+9), 'JST')
now = datetime.now(JST).strftime("%Y%m%d%H%M%S")
def lambda_handler(event, context):
return {
'statusCode': 200,
'body': json.dumps('Lambda! - ' + now)
}結果を確認
- 1回目の結果
{
"statusCode": 200,
"body": "\"Lambda! - 20251212130956\""
}- 2回目の結果
{
"statusCode": 200,
"body": "\"Lambda! - 20251212130956\""
}ご覧の通り、タイムスタンプの値が変わっていません
これは、変数nowの値が1回目の実行で代入された値(コールドスタート実行時のタイムスタンプ)を使い回しているからです
つまり2回目はウォームスタートで実行されたことが分かります
X-Rayで結果を確認
先ほどの2回の実行をX-Rayで見てみましょう
X-Rayを使うことでLambdaの実行にどれだけ時間がかかったかを確認できます
- 1回目の結果

全体で見ると所要時間が322ミリ秒となっています
下の部分にinitという項目がありますが、これがinitフェーズにかかった時間となります
initには126ミリ秒かかっており、およそ全体処理の3分の1がinitに使われていることがわかります
- 2回目の結果

対して2回目は、全体で見ると所要時間が44ミリ秒と、1回目の4分の1と高速になっています
さらにinitの項目が無くなっていることがわかります
これがウォームスタートとコールドスタートの違いです
まとめ
AWS Lambdaのライフサイクルとコールドスタートの具体的な仕組みについて理解を深めていただけたでしょうか?
今回の記事で、Lambdaの実行環境は「Init → Invoke → Shutdown」という明確な3つのフェーズを踏んでおり、特に Init フェーズがコールドスタートと関係していることが、X-Rayのトレース結果からも確認できました。
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